自律的英語学習を支援する環境とコース・デザイン

司会・提案者: 尾関 修治(中部大学)
提案者: 小栗 成子(中部大学)
淡路 佳昌(中部大学)

キーワード:インターネット利用英語教育、自律的学習、コース・デザイン

インターネットを利用した英語学習では、学習者が直接的にクラス外の世界と英語を使用して交渉することが学習活動の中心にある。その利点を活用するために、一部あるいは大部分にインターネット利用学習を取り入れた英語クラスが日本でも急速に増えてきている。しかし、インターネットへのアクセスをどのように英語授業に組み込んでいくか、何を用意してどのようなコースを設計するか、教師はどんな役割を果たすか、そして結果的に何を達成しようとしているかは、クラスにより様々であろう。このシンポジウムでは、特に自律的な英語学習をどう支援するかという点に着目して、これまで日常的に共同でこの分野での教育研究を進めてきた3人の提案者が、シンポジウムの形であえてそれぞれのアプローチの違いを披瀝し、参加者とともに議論を深めていく。

コミュニケーションの始点となるライティングをどう指導するか 提案者:小栗 成子

インターネットで結ばれた環境に学習者を置けば、学習者の意欲的は増し、自然に英語力が付くのだろうか。小栗は、クラス内の学習者を結ぶ利用と、クラス外の世界と学習者とを結ぶ利用の2つのインターネット利用方法を組み合わせ、学びの本質にどのような影響があるかを探る。

小栗は英作文の指導のため2000年度後期に添削指導用のメーリングリスト(ML)を用意した。MLへの投稿は、全てWWWに同時に記録され公開される。学習プロセスが公開され、指導の記録が英作文のアーカイブとして残り続ければ、クラス・学期・年度を越えて活用できる学習者・指導者の共有財産とすることができる。しかし、それ以上に意義があるのは、各学習者の学習過程が重なりあい、刺激し合いながら、学習を進められることだ。一学習者の学びの過程が、自己のみならず他者を刺激し、次の学習を生む推進力に結びつくように指導者は学習環境を用意することができる。

添削指導では、学習者が指導者に依存するのでなく、学習者が指導者を離れたとき、どんな力が学習者のものになっていくのかを考え、自立したコミュニケーターを育成するための指導をしていく必要がある。WWWで発信することは、単に作文の指導を受け終えたプロダクトの公開のためのものであってはならない。指導者以外の読み手に読んでもらい、それを新たなコミュニケーションの始点とするためのものなのだ。その発信を準備する活動を通じて、学習者は英語を並べるだけでは伝わらない、何をどう表現すべきかという「もどかしさ」を初めて実感する。重要なのは、単にライティングテクニックを習得させることではない。各学習者が英語でコミュニケーションすることの意義を考え直し、その次にどのような学習が必要かに気づき、さらに学習を続けていけるよう教師は導いていかなければならないのである。

オンライン・オフライン活動の連携:仮想空間での英語学習と教師の役割 提案者:淡路 佳昌

インターネットを利用した学習の成否は、逆説的であるようだが、オフラインの授業の徹底した見直しにかかっている。

近年の爆発的な流行の中でインターネットは英語教育界でも熱い視線を集めている。とはいえ、それ自体が自律的学習を保証したり、教育効果の向上を約束したりするものではない。むしろ、ネットワークを利用した語学学習の長所が明らかになりつつある今、改めてオフラインでの授業を見つめ直し、これまでの授業に不足していたものや、インターネットを利用して初めて実現できるもの、あるいは逆にオフラインの活動の方が優れている点について、教師が主体的に取捨選択をする視点を持つことが重要である。さらに、そのような検証を通じて、教師の位置づけも再検討する必要がある。ネットワーク上にはさまざまな有益なリソースが存在するが、これまでのネットワークを利用した語学教育の実践では、教師はナビゲータとして学習者をそれらのリソースに導いたり、ファシリテータとしてリソースへのアクセスを援助したりする存在として考えられてきている。しかし、最終的に重要なのは、それらのリソースから入手する情報をどのように処理し消化するのかということであり、その意味では、インストラクターとしての教師の存在を再評価する必要があろう。

schMOOze UniversityやsaMOOraiのようなネットワーク上の英語学習空間を例にすると、これまではこのような場を授業で利用する際、教室とは独立して切り離された学習空間として扱われてしまい、まるで教師が自分の授業から英会話学校へ学生を送り込んでいる、という認識のもとに参加する例が多かった。仮想空間へ学習者を投げ出す前の教室内での準備や、仮想空間での学びを教室に戻ってきてからどう活用するかということまで含めた、総合的な学習の中での位置づけも乏しかった。とはいえ、これらが英語を実際に使用できる格好の場であることは事実なので、なぜこれまでの教室ではそのようなチャンスがなかったのか、これらを教室内で活用することによって何が新たに可能になるのかという視点から活用方法を検討し、併せてその学習過程に教師がどのようにかかわっていくかも含めて考えていく必要があるだろう。

バザールとしてのオンラインクラス 提案者:尾関 修治

インターネットという膨大な学習リソースを手に入れながら、それをいかに英語学習に利用していくか、もてあまし気味の教師が多いかもしれない。あるいは教育目標に合わせてうまく利用し、コースに組み入れる工夫をしている教師も多いであろう。

しかし、特にコミュニケーションを実践する場としてインターネットを見た場合、教師が学習の道筋を体系だて、コースを組み立て、学習活動の価値付けをしていけばいくほど、そこから取りこぼされた個人個人のコミュニケーションや体験が学習的価値のないものとして取り残されていくというジレンマがある。本来人と人をつなぐものであるはずであり、それゆえにコミュニケーションを学ぶ場として魅力的に見えたはずのネットワークが、「より効果的に利用する」努力の結果、コースを消化するための道具におとしめられ、肝心のコミュニケーションの価値を見失ってしまうことがある。

このようなジレンマを解消する試みとして、ネットワークの仕掛けを利用して、自分の学習活動自体を公開し共有し、進行状況や方向性を比較しあい、お互いに評価し合うことで個人の学習活動の価値付けをしていく、いわばバザール的なアプローチを試みている。そこでは経験や感動だけでなく、具体的な技術(どのようにして交流相手を見つけたかなど)も交換され、有益な情報は他の学習者に利用され、修正されるべきものは相互に指摘しあい、個人ごとの目的を見失わずに学習活動を進めていくことができる。

このような活動は、相対的に見れば一件無秩序で達成度が低いような印象を受けるが、学習者個人の目から見れば、目的を達成するための一貫性があり、手段を目的と錯覚させられることが少ない。バザール的クラスが、どのように自律的学習活動を促進していくか、実例を挙げながら議論していく。

(おぜき しゅうじ;ozeki@intl.chubu.ac.jp、おぐり せいこ;oguri@clc.hyper.chubu.ac.jp、あわじ よしまさ;awaji@intl.chubu.ac.jp)