大修館「英語教育」97.2月号「英語教育ネットワーク通信」原稿

学びあう共同体の形成 (2)

英語の授業で海外のニュース番組を視聴して教材として利用している方は大勢いらっしゃることだろう。今回は、CNNを教室で教材として利用するための情報提供サービス、The CNN NEWSROOM Classroom Guideを紹介したい。

 The CNN NEWSROOM Classroom Guideは、Turner Educational Servicesが無償提供している教材送付サービスだ。ニュース番組CNN Newsroomを教室で視聴して生徒に課すための課題などを毎日電子メールで配送してくれる。毎回、翌日のCNN Newsroomの内容が決まり次第教材を作成し、放映当日の深夜2時から4時(米国東部時刻)に発送してくる。内容は、番組のトピックと時間割に始まり、生徒に提示する質問項目、印刷して配布し空欄を埋めさせる表、ディスカッションのテーマ、番組で使われる語彙のリスト、より詳しい情報を得るためのWWWページのアドレスなどだ。教師はこれを毎朝プリントアウトして、生徒に配布して、番組を視聴して授業を始めることができる。英語教育を目的として作成されているわけではないが、CNN Newsroomを視聴して英語学習に役立てる助けになるだろう。毎日授業で使うのは無理でも、関連サイトからテキストを入手し、語彙リストや設問を編集して添付するだけでも時事英語の教材となるだろう。

 これだけの内容を、週末や休暇を除き毎晩短時間に作成し世界中に無償で発進する作業を継続している努力に敬意を表したい。  The CNN NEWSROOM Classroom Guideを利用するには、majordomo@tenet.eduあてに、

 subscribe cnn-newsroom

とだけ書いた電子メールを送ればよい。自動登録され、毎日教材が送られてくる。

 The CNN NEWSROOM Classroom Guideをはじめとするアメリカの各種の教育関係のインターネット上のサービスを見ると、学習を助ける教材や情報が学校の外で大量に提供されていて、しかも学校教育をもり立てようとしていることをうらやましく感じる。日本にも塾や出版社などの教育産業が存在するが、受験対策や検定試験対策、ドリル学習教材の提供が中心ではないか。もっとも、学校教育の現場がドリル学習や入試対策が中心であれば、学校外からの教材提供もそのようなものにならざるをえないだろう。

 誰でもがいつでも学習できると同時にいつでも教えたり教材を提供する側にもなりうる。これはもちろん人類発生以来の真実なのだろうが、現代の日本では、塾や検定試験なども含めて、社会の中での教育・学習が高度に「学校化」されてしまっているのではないか。学校や検定された資格だけが教育・学習の証として権威を持ちすぎていないか。もちろん、「堅い」教育システムが必要だった時代もあったのだろうが、現在は教育がもっと柔軟になっていく必要がある。

 インターネットは誰もがどこででも学習者となり教授者となる可能性を大きく広げた。海外のサイトを利用して学ぶだけでなく、海外の学習者のために一般の日本人が世界に教材や情報を提供することもできる。

 インターネット付きテレビで、インターネット付きゲーム機で、インターネット付き通信カラオケ機で、人々が学び教える時代が来る。おそらく人々は「教育」ということを意識することさえなく、学び教えあうだろう。なぜなら、今日本で一般に「教育」と読んでいるものからはあまりにもかけ離れた、日常生活に即し個人的な経験と意識に根ざした情報交換となるからだ。「普通の日本人」がこのように自助努力的に(しかも海外と!)学び教えあうようになる可能性があり得るかどうか疑問を持つ向きもあるだろう。しかし、ボランティアが日常化しつつあるように、形式と権威に頼らない活動に魅力を覚える人は日本にも増えてきていると思う。そしてその動きは、今は小学校から大学そして教育産業まで「受験」という糊でくっつけられ社会から隔離されてしまっている学校教育を外から突き動かし、教育と学習をより広い世界の中に位置づけ直す原動力になるかもしれない。

 そこで、先回の繰り返しになるが、国境を含めた社会的境界を超えて人々が教え学びあう社会では、外国語教育を含めた言語教育の意義が問い直されることになる。この点について次回検討したい。

ozeki@clc.hyper.chubu.ac.jp
http://langue.hyper.chubu.ac.jp/ozeki/

(中部大学助教授 尾関修治)